弦楽合奏曲解説(第12回定期演奏会)
ディヴェルティメント ヘ長調 K.138
W.A.モーツァルト(1756~1791)
1772年、イタリア旅行から帰国した16歳のモーツァルトが故郷ザルツブルクで作曲した3曲のディヴェルティメントK.136~K.138は、シンフォニックな構成と響きの厚みから「ザルツブルク・シンフォニー」とも呼ばれています。
ディヴェルティメントの語源はイタリア語のdivertire(楽しい、面白い、気晴らし)であり、明るく軽妙な曲と言われていますが、K.138では、第2楽章の不協和音、第3楽章のフーガなど、当時としては新しい試みも見られます。
保谷弦楽アンサンブルでは、第10回定期演奏会(2016年5月)にK.136、第11回定期演奏会(2017年7月)にK.137を演奏しており、今回のK.138でコンプリートとなります。若き日のモーツァルトらしい溌剌とした演奏ができるでしょうか!?
●第1楽章 Allegro 4/4拍子 へ長調 ソナタ形式
●第2楽章 Andante 3/4拍子 ハ長調 二部形式による緩徐楽章
●第3楽章 Presto 2/4拍子 ヘ長調 軽快なロンド形式
セントポール組曲
グスターヴ・ホルスト(1874~1934)
1905年、31才の時から亡くなる1934年までセントポール女学校の音楽指導者を務めたグスターヴ・ホルストは、この学校のオーケストラのために多くの楽曲を作った。<セントポール組曲>はその中の1曲である。
●ジーグ・・・16世紀のイギリスで流行した爽快な舞曲。ふたつの旋律が混ざり合いながら進行し、終盤に向けてどんどんとスピードを増していき一気に終わります。
●オスティナート・・・ジーグの活発な雰囲気とは対照的でセカンドヴァイオリンが奏でる8分音符のパッセージの繰り返しの上でピチカートやヴァイオリンソロの旋律が可愛らしく流れていきます。
●インターメッツォ・・・異国を感じさせる曲で、ゆったりとした3/4拍子で始まりピチカートの伴奏によるヴァイオリンソロ、ビオラソロが繰り広げられると突然激しい2/4拍子に変わります。これを交互に繰り返し最後は各パートのソロとなり眠るように消えていきます。
●フィナーレ・・・吹奏楽のための第2組曲の終曲<ダーガソンによる幻想曲>を弦楽合奏用に編曲したものです。自然に体が揺れてくるような軽快なリズムの主旋律の中、有名なイギリス民謡グリーンスリーブスが何度か現れます。低弦楽器で現れたり高弦楽器で現れたり。それぞれの旋律の絡み合いをお楽しみください。
弦楽セレナード ホ長調 作品22
アントニン・ドヴォルザーク(1841-1904)
後半はドボルザークの『弦楽セレナード』を演奏します。セレナードとは、夜、青年が恋人の窓の下で、ギターなどを鳴らしながら歌った愛の歌でしたが、19世紀にはほとんど作曲されなくなりました。そんな中でもブラームスやチャイコフスキー、ドボルザークはセレナードで素晴らしい作品を残し、特に去年の定期演奏会で演奏しましたチャイコフスキーのセレナードとこの曲は、しばしば比較されます。
チャイコフスキーが、華やかでインパクトの強い曲に対して、その5年前に書かれたこのドボルザークのセレナードは、穏やかで重く、一見地味な曲に感じられますが、噛めば噛むほど味が出てくるような奥深い魅力があります。
ドボルザークは1841年チェコで生まれ、スメタナと並んで『国民楽派』と言われた作曲家です。33歳の時にこの弦楽合奏用のセレナード、36歳の時には管楽器のためのセレナードを書きました。 この曲を作るまえには、3人の愛児を亡くすという絶望に近い時期がありましたが、この頃は、ブラームスにも認められ、オーストリア政府から奨学金を得ることができ、経済的にも余裕ができて、若いドボルザークの意気揚々としながらも、心穏やかで優しさと愛に満ちた心情がうかがえます。
●第1楽章 モデラート ホ長調 4分の4拍子
ビオラが八分音符を刻む中、セカンドバイオリンとチェロが会話しているように、穏やかなメロディーで始まります。やがて各楽器でテーマを演奏し、発展します。肩の力を抜いた、格式ばらない作風が、この一楽章から感じられます。
●第2楽章 ワルツのテンポで 嬰ハ短調 4分の3拍子
はじめからこの曲の哀愁帯びたテーマが現れますが、このメロディーは、ショパンのピアノ曲作品64の2、嬰ハ短調のワルツの第2テーマと同じ形で始められているのにも注目されます。また中間部のトリオもショパンのワルツと共通点があり、メロディーの形も似ています。ただ、全体をカノン風に模倣させたり、各パートを2分に分奏させて響きを豊かにしているところは、ドボルザークらしいと言えます。
●第3楽章 スケルツォ ヴィヴァーチェ へ長調 4分の2拍子
活発なスケルツァンドのテーマが、チェロとバイオリンでカノンのように追いかけっこをして現れます。中間部は第一バイオリンに最も美味しく美しいメロディーが出てきます。
●第4楽章 ラルゲット イ長調 4分の2拍子
二楽章のトリオのように、下行の動機を使って抒情的に始まり(イタリアのフレデリコ・フェリーニ監督の映画『道』(音楽:ニーノ・ロータ)で使われている旋律がよく似ているそうです)、曲中で最もムードたっぷり豊かに盛り上がります。
●第5楽章 フィナーレ アレグロヴィヴァーチェ ホ長調 4分の2拍子
当時、ドボルザークが好んでいた、主調のホ長調から離れた調で始め、途中から主題に戻す方法がとられています。
初演は作曲された翌年の1876年、プラハフィルハーモニー交響楽団よって演奏されました。