弦楽合奏曲解説(第13回定期演奏会)
ヴァイオリン協奏曲集「和声と創意の試みより『春』
アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)
本日の1曲目は、最も広く親しまれているクラシック曲のひとつをお届けします。
この作品を作曲したヴィヴァルディは、イタリア・ヴェネツィアの生まれ。この『春』も故郷の風景を元に描かれたものと思われますが、大澤先生は「桃源郷に春が来たんですね」とご指導下さいました。
この曲で特徴的なのはソネットが付随していることです。ソネットは14行から成る定型詩で、この作品では第1楽章で8行、第2・第3楽章ではそれぞれ3行で春の風景を描いています。演奏も詩の内容に沿っており、小鳥のさえずり、雷、犬の鳴き声などが音で表現され、あたかもその情景が目の前に広がるようです。
また、第1楽章と第3楽章はリトルネッロ形式で書かれており、合奏による主題と独奏によるエピソードの提示が交互に繰り返されるために耳になじみやすいのも、親しみをもって聴かれる理由の一つかもしれません。
【ソネット訳詞】 ※作者は不明ですが、ヴィヴァルディ本人という説もあります。
<第1楽章>
春がやって来た。楽しげに/小鳥は幸せに満ちた歌を歌い、喜んで春を迎える/泉はそよ風に誘われて/甘いせせらぎの音をたてる。そのうちに/空は黒雲に包まれ、稲妻がとどろき/雷鳴が春の到来を告げる/やがて嵐は去り、小鳥が再び/喜びの歌声をあげる
<第2楽章>
花が咲きほこる牧場では/木の葉がやさしいざわめきを子守歌に/羊飼いが犬をわきにはべらせ、まどろんでいる
<第3楽章>
妖精も牧童達も/すばらしく晴れわたった春の日ざしの中で/バグパイプに合わせて踊りだす
弦楽セレナード
エドワード・エルガー(1857-1934)
エルガーはイギリス・ウスター近郊のブロードヒルに生まれました。父が音楽関係の商人のため早い頃から音楽に親しんでいて、ピアノ、弦楽器、ファゴット、作曲をほとんど独学で習得しました。音楽家としては40過ぎまで恵まれず、世界的作曲家に大成するには妻 キャロライン・アリスの支えが大きいと言われています。日本でもよく聞かれる「愛の挨拶」や本日演奏のセレナードも彼女に捧げられています。セレナードは1892年作曲ですが、ロンドンでの初演は世界的名声を得てからの1905年、彼自身の指揮で行われました。
●第1楽章 アレグロ ピアチェヴォ―レ 6/8拍子
ピアチェヴォ―レ(愉快に)と記され、ヴィオラの快活なリズムで始まる3部形式です。
●第2楽章 ラルゲット 2/4拍子
ゆっくりとした序奏で始まり、主旋律から盛り上がり静かに終わります。
●第3楽章 アレグレット 12/8 6/8拍子
軽快な主題がチェロ・コントラバスに受け継がれていき、第2ヴァイオリンが突然曲冒頭のリズムを奏で、第1楽章が再現されて終わります。
アンダンテ・フェスティーヴォ
ヨハン・シベリウス(1865-1957)
後半のステージは、北欧の作曲家の作品でまとめてみました。
アンダンテ・フェスティーヴォは、フィンランドの作曲家ヨハン・シベリウスによる晩年の弦楽合奏曲です。この曲は、1922年冬、中部の町ユヴァスキュラ近郊にあるサウナトサロ製作所の25周年記念式典のための曲として書かれました。祝祭カンタータを依頼されたのですが、シベリウスは弦楽四重奏曲を創作しました。フェスティーヴォはイタリア語で「祝祭的な」という意味ですが、この曲は祝祭的というより、荘厳な宗教的讃歌のイメージが強く感じられます。そして、フィンランドの森にある深い青をたたえる湖、澄み渡ったひんやりとした清らかな空気を連想することができるような気がします。天空に大きな弧を描くようなみずみずしい旋律、オルガンの響きを思わせる清らかさ、すべてを許すような優しさと慈しみ、透明感は、シベリウスならではのものではないでしょうか。
組曲「ホルベアの時代から」
エドァルド・グリーグ(1843-1907)
この組曲は1884年に作家ルズヴィ・ホルベアの生誕200年の祝祭の際に作曲されました。原曲はピアノ曲でしたが、今ではグリーグ自身によって編曲された弦楽合奏版の方が有名になっています。この曲を作曲するにあたりグリーグはバロック音楽の様式の中に自らのロマン派的な音楽を組み込みました。そのため、バロック音楽よりも表情の豊かな表現、テンポの変化が随所に見られます。
第1曲「前奏曲」は躍動感が魅力です。リズム隊は右手がもつれそうになりながらも頑張ります!
第2曲「サラバンド」は穏やかな舞曲、チェロの優雅なソロに注目です。
第3曲「ガヴォットとミュゼット」は宮廷で踊っている風景を想像しながら演奏します。どうか皆様に伝わりますように。
第4曲「アリア」は唯一短調の曲でグリーグの音の美しさが際立ちます。弦楽ならではの和音の響きもお楽しみください。
第5曲「リゴードン」は目まぐるしく回転するようなヴァイオリンとヴィオラのソロ重奏がアンサンブルのピチカートに乗って、気分上々でこの曲を締めくくります。